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(無題)
投稿者:
ZNO
投稿日:2009年 4月 5日(日)11時22分17秒
返信・引用
PM11:45
<時報が午後11:45を告げる>
月の明かりだけが差し込むワンルームの中央で、僕がメグミと呼んだ女性が立ちすくんでいる。
「明かりをつけたら?」と僕が言う。彼女は返事をしない。そして白色灯のかわりにTVのリモコン
のスイッチをONにする。
<ブーンというTVがつくS・E>
音は消されている。液晶から放たれる光の組み合わせが、彼女を仄暗い、さまざまな色に染め
る。
誰かが、この光の中で生きている。そのことが彼女の孤独を少しだけ和らげてくれる。例えそれ
が、リアルタイムじゃないVTRの映像だったとしても。
フランス製の鞄のなかから銀色のシガーレットケースを手探りでとりだし、灰皿を片手にベランダに通
じるガラス戸を開ける。
<ガラガラッというドアの開くS・E>
ベランダからの夜景を見ながらタバコを吸うのが彼女の日課となっているみたいだ。
眠らない都市が神経細胞のように張りめぐらされ、休むことなく活動している。君はそれを眺め
ながら濁った灰色の溜息をつく。
今僕は「神経細胞のように」といった。本当にそうだね。だけど本物の神経細胞はいま君が見て
いる夜景よりもっと複雑で、混沌としていて、しかも膨大だ。
脳の神経細胞だけで1000億個だからね。地球の人口の16倍はある。
しかもそれがどんどん入れ変わっていく。古いビルが潰れて新しいビルが建つ。新しい交差点
ができて、新しい道路ができる。<イメージ音流れながら>一秒単位でだよ?
そのなかを行き交う人、車、全ての交通は、「細胞を流れる情報」という名の電気信号だ。それ
が、今君がみている夜景のように眺められたらどんなに楽しいだろう。
<イメージ音C.O>
メグミは遠くを眺めている。あまり楽しくはなさそうだ。煙が風に流されて僕のほうに漂う。思わ
ずむせこみそうになるけど我慢我慢。天使は寛容でなきゃいけない。
「ねえ、メグミ。」と僕がいう。彼女は返事をしない。虚ろな瞳に都会のネオンランプがちかちか
光っている。まるで様々な色を放つ蛍の群れがそこに住んでいるみたいに。
僕は彼女の横に並んで立ち、同じ光を瞳に宿す。それから僕はゆっくり目を閉じる。
すると、目蓋の裏側に彼女の脳のなかの神経細胞の営みが、このベランダから見える都会の夜
景のように映し出される。
君はそれをスクリーンを通して観ることができる。
「君が初めてタバコを吸った瞬間、この街の信号は一斉に青に変わった。それがニコチンが君に
しかけた最初の企みだ。赤信号で止まる車がない。黄色信号でスピードを緩める車もない。
どうなるかわかるよね。わかったら、さあ、耳を塞いで。」
<S・E車のクラッシュ、クラクションの悲鳴、破壊の音>
初めてタバコの煙を体に吸い込んだとき、君は酷くむせて咳き込んだ。タバコはもともとは毒性
の植物から作られる。毒を体のなかに入れたんだ。当たり前の反応だ。
信号は慌てて赤に変わる。交通が一時停止をする。体の免疫システムが君を守るために作動したんだ。
こうして最初のタバコは君に何の楽しみも喜びも与えてくれなかった。
こんなものを大人はなぜ気持ち良さそうに吸っているんだろう。わたしがこんな不味いものを一
生吸い続けることはない。そのことを確認するためもう一度吸い込んでみる。・・不味い。
大丈夫。私にはタバコは必要ない。一生吸い続けるなんてありえない。君はそう思った。
その油断がニコチンが君にしかけた2番目の企み。ちゃんと計算のうちに入れられた油断だった
んだ。
免疫システムのおかげで事故で壊れた車は回収され、道路も修復した。
車の列が動き出す。何事もなかったのように交通は機能を取り戻した・・・かのように見えた。
ひとつの変化が起きている。君はそのことに気づかない。
信号だ。
信号はゆっくりと、君が気づけないくらいゆっくりと異常を起こしていた。そしてそれは今の今まで
ずっと続いている。
初めてのタバコを吸ってから数時間後。君は微かな違和感を感じた。君はそのことをもう覚えて
いない。何かが足りないような感覚。なんだか落ち着かないような漠然とした不安。
黄色信号だ。
いつもなら控えめな黄色の信号が点灯する時間が延びだしたんだ。少しずつ、君が気づかな
いくらい少しずつ。
<S・E 渋滞の音、クラクションが断続的に響く>
黄色の信号で車はスピードを緩める。止まる車もでてくる。もちろん渋滞が起こる。信号を青に
してくれとドライバー達は要求する。免疫システムは働かない。事故はまだ起きていないからだ。
「(リバーブのかかった高音の耳障りな声で)さあ、君のとるべき行動はひとつだ。一瞬で青に変
える方法があったね。ほら、急がないと赤になっちゃうよ。」
<ライターの音。ジュッというタバコの先端の燃える音>
二本目のタバコだ。咳き込まないように、君はほんの少しだけ煙を吸い込む。事故が起きないよ
うに。免疫システムが作動しないように。
信号が青に・・・変わった。
不安が消える。落ち着いた感じがする。君はもう一口だけ吸って灰皿に二本目のタバコを潰す。
「(ニコチンのリバーブ声)ほーら、落ち着いた。さっきは失敗したね。一気に吸い込みすぎたん
だ。すこーしずつ吸いこめば事故は起きないんだよ。また渋滞が起きたら、僕を吸うといいよ。
無理にとは言わないけどさあ」
こうして君は3番目の罠に引っかかってしまった。君が感じた微かな不安は、最初に吸った一本
が生み出した全く意味のない不安だったんだ。
<ガラス戸が閉まる。ピシャ>
僕の後ろでガラス戸が閉まる。僕は目を開ける。スクリーンにはガラス戸の向こうでバスルーム
に消えていく彼女の後ろ姿が映る。テレビでは中年のコメディアンが音を立てずにジョークを飛
ばしている。
確かに夜景を眺めながらする話じゃなかったね。実際聴こえてても、愛なんか感じないだろうな。
天使のくせに僕は愛を伝えるのが下手くそだ。でも君がいつかタバコを手放す日まで、僕は君を
見守る。それが今の僕にできる精一杯の愛情表現だ。
・・・迷惑じゃないといいけど。
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